異島工房の休憩室

小説を書いていないところです

今年読んだ良かった本(小説以外編)

これの続きです。今回は小説以外。ジャンルが広すぎではないか。広いとは何か。何かとは……

2018、余計なことは考えないようにしていきたい。

 

学習関連 

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体 (新潮選書)

 

 反知性主義について学べると思いきや、ほとんどがその源流となった『リバイバリズム』についての歴史的説明になっています。が、これが予想以上に面白かった。アメリカは自由以前にマジでガチガチのキリスト教国だということが分かります。「馬鹿で良い、馬鹿が良いことなんだ」、という反-知性-主義ではなく、「エリートはダメだ!」という反-知性主義ですね。政教分離が日本と全く違う文脈でとらえられていることも面白いです。個人的には今後世界中で宗教の復権が行われるとみているので、こういう本を読んで知ったかぶりしていきましょう。

<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性

<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性

 

  現代左翼のバイブルとされた本。資本主義が国家主権を実質的に解体し、差異をひたすら生成する、見えない統一的な〈帝国〉という形態の主権が誕生しつつある。この脱中心化された主権の暴力に対し市民はどう抵抗するのか、という趣旨ですが非常に厳しい戦いだなあというのが読後の感想。だって抵抗運動自体が下手やると資本主義の欲望する差異の源泉になっちゃいますからね。SEALDsとか結果的にうすっぺらい人文書売りさばくのに貢献しただけなので正にそうです。うまくやらないといけない。リベラルはどこにいくのか。

 

帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕

帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕

 

  フランスの右翼的統計人口学者、エマニュエル・トッドの代表作(一般向けとしては)。「アメリカかまってちゃん説」が提唱されており、実は今アメリカは皆が言う程の超大国ではないのだ、という論旨。アメリカの右翼は当然キレるが、アメリカを強者とみて非難するアメリカ文化左翼チョムスキーとか)まで非難するのでどこまで敵に回すんだという印象。一時期ヨーロッパでの外交戦略の思想的バックボーンとして使われていたようです。トッドはフランス人に共通するドイツ嫌いがすごいのでフランスの政治的ダメっぷりにお困りのご様子。文春からすごいペースで新書が出ている気がする。

ゲンロン0 観光客の哲学

ゲンロン0 観光客の哲学

 

  「積極的棄権」で炎上したりしたが、なんだかんだいって東浩紀は今一番キレがいい”現実にコミットした”哲学者ではなかろうか。読んでるとやはり上で紹介した『〈帝国〉』の影響は凄まじいものがあると感じる。国家は依然複数存在しているのに、資本はグローバル化されて統一されてしまった。その断絶がどのような歪みをもたらすのか。こういう世界で市民たちはどう生きていけばいいのか。「とにかく否定」になりがちなデモをやんわりと拒絶し、既存の秩序を偶然で掻き乱す『観光』を提案するのだけど、はたして。 

  満を持しての古典。注釈が多すぎてビビるが、この注釈こそが近代社会学創始者としてのキモだったのではないか。言いたい事の概念と範囲をきっちり指定し、その範囲内で言えることだけをいうために資料を集め、必要な史料批判はちゃんとする。ゾンバルトが殴られ過ぎてかわいそうになるが、ゾンバルトも本書での議論をするための前提として必要不可欠だったし偉大さは変わらないので馬鹿にしてはいけない。

 

有限性の後で: 偶然性の必然性についての試論

有限性の後で: 偶然性の必然性についての試論

 

  前半の、「カント以降の相関主義を乗り越えつつ実在論復権させるためにはどうしたらいいのか」に関する論証の凄まじい緻密さもよいが、そんなに哲学に興味無い人は、哲学者はどうして「コペルニクス的転回」の意味を取り違えてしまったのか、というメイヤスーなりの考察である四章だけでも読むと面白いかもしれない。「物自体」はそれ単体では語りえないとする相関論の原点となったカントの認識論的転回(カント自身は物自体に関してそこまでラディカルではないのだが)の取り違えを非難する。哲学面白いけどはまりすぎると社会をやめないといけなくなるのがつらいところですね。みなさんは社会をやっていますか?

 

ゲンロン6 ロシア現代思想I

ゲンロン6 ロシア現代思想I

 

  「ロシアをやる」の要因の一つになったロシア思想特集だったのだが、現代ロシアはとんでもねえ。日本は前の体制が死んでから70年以上たったが、ロシアはまだ20年ちょっと。この差はでかく、様々な思想が爆発的に出てきては別の思想が出てきたり忙しい。思想見取り図が付いているのがほんとに嬉しい。プーチンの思想的ブレーンと目されているアレクサンドル・ドゥーギンは若干オカルトが入っており、日本における安倍総理婦人だったり、上述の反知性主義勃興などと結び付き、現代は20世紀教養思想の転換点にあるな、と強く感じる。

 

アート・パワー Art Power Boris Groys

アート・パワー Art Power Boris Groys

 

 『全体芸術様式スターリン』と並んで今年読んだ中ではベストだと感じた、ロシア圏の評論家、ボリス・グロイスの論文集。「売れたら勝ち」の市場至上主義が蔓延する現代アートシーンで、アート批評と社会批評を再び結びつけようとし、アートの政治力を復権させようとする前向きな努力。〈帝国〉に対する抵抗の1つのアプローチとなるか。東浩紀が『観光客の哲学』で観光がもたらす偶然性(≒郵便性)に期待しようとしていた所、『複製ツーリズム時代の都市』で、経済的要請からみんなが観光客になり、そして場所も人々から求められるようにして観光地化していくと述べて、観光客の郵便性を、差異の生成装置として捉え無力化しようとしている。すべての論考が、掘り下げていけば狭い美術批評の中だけでなく社会批評やアイデアを生むきっかけとして機能するように出来ている。一本一本はわりと短いので濃度があり、強い。

 

我々みんなが科学の専門家なのか? (叢書ウニベルシタス)

我々みんなが科学の専門家なのか? (叢書ウニベルシタス)

 

  Twitter、やってますか?有名人や政府、叩いてますか?

叩くためには、つまり一般人が専門家の話している所に割り込んで文句を言うには一体どんな知が必要なのか、特に科学と技術に絞って描かれているのがこの本。これを読んだ後、原発問題とか考えると、一般人がそう気軽に技術的な話とか語れるものではないのではないかという知見が得られるし、Twitterで他人にかみつくには相手のレベルに匹敵する知識と技術がいるということがわかってきてよいと思います。他人の気持ちになる、尊い

 

批評とポスト・モダン (福武文庫)

批評とポスト・モダン (福武文庫)

 

  全盛期の柄谷行人の切れ味は異常ということが分かり、議論における柄谷行人の構造的な強さが分かってきます。論争中の問題について、絶対に同じステージまで降りて戦うことはせず、その問題が生まれているそもそものメタ構造に注目して土台ごとひっくり返す、場合によっては問題の前提を反転させることまでやります。どうして今はアヘアヘ憲法九条フロイト的無意識おじさんになってしまったのか。

 

哲学者にならない方法

哲学者にならない方法

 

  土屋賢二は、哲学の話よりこういうプライベートなエッセイの方がはるかに面白く、実質さくらももこなのでは?という疑惑があります。よく対談本出してたなそういえば。

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

真剣師小池重明 (幻冬舎アウトロー文庫)

 

 官能小説家の帝王、大好きな団鬼六先生のノンフィクションですが本当に読ませるのがうまい。というか小池重明がそれだけ濃厚な人物ということもある。将棋しかなかったのにプロ棋士の機会を自分で潰してしまう生粋の破滅男の話。『聖の青春』の次はこれを読め!その後団鬼六の官能小説を読んで股間にビビっと来い!

 

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

 必要なもの、それは体力と忍耐。 

 

戦争サービス業―民間軍事会社が民主主義を蝕む

戦争サービス業―民間軍事会社が民主主義を蝕む

 

 戦争といえば国家対国家、そんな時代がありました。現代はもうそうではない。アメリカ軍の多くの面(所によっては新兵教育すら!)を民間軍事会社が代行しているという告発。国家対国際テロ組織という非対称戦争の概念が叫ばれているけれど、本当に現代国家が本気で戦争をしているのか?国家が自らの戦争を完全にコントロールできているのか?アブグレイブ刑務所における捕虜虐待事件に民間軍事会社が関わっていたことなどを考えると、教科書で習っていたことを現実が追い抜いていくペースが尋常じゃなく早いことが分かってきます。

その他(詩とかエッセイ、あとわかりが不明の学術書)

今年はわかる本だけではなく、わからない本もありました。

 

形式化された音楽 (単行本)

形式化された音楽 (単行本)

 

  はい、ヤニス・クセナキスの作曲ハウツー本、『形式化された音楽』です。なにひとつ分からん。どうして作曲をするのに確率分布、マルコフ連鎖ブール代数、熱力学についての知識が使えると思ったのか。どうしてその使い方で良いと思ったのか。解説がさらに面白く、クセナキス自身はこの本の方法論で作曲していた時期は少なく、しかもそこから傑作はあまり出てないだとか、数学的な技術に関して気遣いか補遺を残してるんだけど、「完全に間違っており、意味不明」とか書かれている。人間は何かを産み出す際、とても苦しみ、傍から見たら完全におかしいのでは?というところまで行かなければならないということがよくわかります。俺もおかしくなりたい。みなさんはおかしくなりたいですか?

 

小笠原鳥類詩集 (現代詩文庫)

小笠原鳥類詩集 (現代詩文庫)

 

  小林銅蟲先生が紹介していたので知った詩集ですが、何一つ分からん。が、すごいことが行われているということ、独特のおどろおどろしさ、非人間的冷たさがあるということは何となく伝わってきます。言語自体を動物と見立てて、自由にさせてるという解説を見てなるほどな、と思いました。言語に意味を持たせているのは人間で、言語さんサイドからしたら意味などお呼びでないのかもしれない。日本語表現の可能性という点では、この本にかなり刺激されました。ページ数のわりにクッソ読むのに時間かかったけどな!

 

人生論(新潮文庫)

人生論(新潮文庫)

 

  わかるけど、わからない、、、わかることを、エゴが、煩悩が邪魔をするんだ……

おわり

 こうみると今年は小説よりも馬鹿みたいに人文書読んでました。来季は他分野の知識が欲しいと感じているところです。特に服飾とか情報工学

    一方、逆説的ですが何か専門だと言える分野がないと人間としての軸がぶれ続けるな、と感じた1年でもあります。知識のポートフォリオをよく考えて組まなければならない。

 

 それではみなさん、来年も良い読書ライフを~~~~